先進事例紹介
CASE.06
一般財団法人プロジェクションマッピング協会(前編)
今回は日本におけるプロジェクションマッピングの先駆者である一般財団法人プロジェクションマッピング協会の代表理事・石多未知行さんに、日本にプロジェクションマッピングが普及した国内外での実施事例、さらには日本と海外とのプロジェクションマッピングにおける捉え方の違いなど伺いました。 前編では、石多さんがプロジェクションマッピングと関わるきっかけから、協会を立ち上げ活動を展開していく過程を辿りながら、国内にプロジェクションマッピングを広げていくうえで「何が必要だったのか」「何を大切にしてきたのか」を整理します。
実施団体:一般財団法人プロジェクションマッピング協会
エリア:―
実施時期:―

空間表現への関心が、投影表現へつながった
——:石多さんがプロジェクションマッピングに向き合うようになった原点から伺えますか。
石多:もともと空間全体をアートとして表現するメディアアートやインスタレーションに関心がありました。モニターやスクリーンの中だけで映像表現を完結させるのではなく、空間全体を利用した投影表現を探求し、一時期はイギリスでも活動していたんです。そんなときに出会ったのがプロジェクションマッピングでした。2006~2007年くらいからヨーロッパで話題となり、YouTubeなどで映像を見かけるようになったのですが、これまでにはない映像表現にとても衝撃を受けたことを覚えています。
——:どんな点に衝撃を受けたのですか?
石多:まず「映像を物体に合わせる=マッピングする」という発想が斬新でした。映像って普通は、単にスクリーンへ映すとか、モニターで見るものじゃないですか。でもプロジェクションマッピングには「物体に合わせて映像を置く」という考え方がある。その発想から描き出される世界観が面白いと感じました。
——:その体験が、日本へプロジェクションマッピングを持ち帰ろうという動機につながったんですね。
石多:そうですね。日本ではまだ知られていない手法だったので、「これを日本でも成立させたい」と思ったんです。そのためには、映像を制作するクリエイターや機材などの技術だけじゃなくて、投影する場所の条件、イベントの安全面も含めた運用ノウハウなど、プロジェクションマッピングを成立させるには“総合力”が必要だと、同時に感じていました。
——:そして2010年、国内初のプロジェクションマッピングを活用したパブリックショーとなる逗子の小学校での取り組みをされました。これはどのような意図で開催されたのでしょうか?
石多:当時は「プロジェクションマッピング」という言葉自体が一般的ではなかったですし、前例もほとんどない状況でした。だからこそ、まずは日本で実際にやってみて、どんなものなのかを知ってもらうこと。そして、「自分もプロジェクションマッピングに挑戦してみたい」というクリエイターや、プロジェクションマッピングに関心を持つ人たちを増やしたいという意図がありました。
——:初めての試みを通じてわかったことはどんなことでしたか。
石多:学校という場所は象徴性も強いですし、地域で親しまれている小学校に集まり、普段見慣れた校舎に幻想的な映像を投影すること自体が、そこで暮らす住民全体にとっての貴重な体験になります。
普段の景色の中に非日常が生まれる。しかもそれが、個人の鑑賞体験のみならず、同じ場にいる人たちの「共有体験」になりうる。そこがプロジェクションマッピングの一つの魅力でもあることを再認識しました。そしてそれを伝え、より多くの人に対してプロジェクションマッピングへの関心を高めるという思いを強く意識するきっかけになりました。




協会の立ち上げ——個人の挑戦を「続く仕組み」に変える
——:その後、2011年にプロジェクションマッピング協会が発足します。どうして「組織」が必要だと感じたのでしょう。
石多:逗子での経験で、プロジェクションマッピングの可能性と実現への道筋はわかりました。しかしそれを継続させるには、私個人の熱量だけでは足りないと思いました。関わる人が増えるほど、情報やノウハウの共有、クリエイターの育成などがやりやすくなる。
だから最初にプロジェクションマッピングに関わる人を増やすための「場をつくる」方向に舵を切ったところがあります。そこで2011年に協会を発足しました。
——:協会の役割は、作品をつくることより、プロジェクションマッピングの関係人口を増やすということだったんですね。
石多:そうです。プロジェクションマッピングへの「挑戦が生まれ続ける環境」を醸成することが、法人をつくった根っこにあります。
プロジェクションマッピングは、クリエイターが映像をつくれば終わりではなく、会場条件、観客動線、近隣、行政手続き、安全対策など、イベントを成立させるための総合力が問われます。だからこそ、経験や知見が循環・蓄積する土台がないと、広がり方が限定されてしまう。
プロジェクションマッピングの魅力は、言語を越えて直感的に届く体験価値にある一方で、公共性が高い場所に行けば行くほど、設計の力が問われる。その設計を磨いていくためにも、ともに学び合い、チャレンジし続けられる場が必要だと考えました。
——:そして2012年に、国際大会『1minute Projection Mapping Competition』をスタートさせます。なぜ国際大会を始めたのでしょう。
石多:一つは、日本の中だけで盛り上がっても、クリエイターの視野と表現が狭くなってしまう、という危機感がありました。もう一つは、世界の表現を同じ条件で見られ、そして発信する機会をつくりたかったのです。
「世界で今、何が起きているのか」を知って、学んで、日本からも世界へ向けて発信する。その知識の往復がないと進歩がないと思いました。


——:「1分台 」というユニークなルールにした意図は?
石多:一番は制作と大会エントリーのハードルを下げるためです。長尺の作品をつくるのは負担が大きいですが、1分台なら挑戦しやすい。結果として、プロも若手も同じ土俵に立てるし、多様なクリエイターが集まりやすくなる。初回は5カ国から参加がありました。
あと、短いからこそ表現の密度が出ます。制限がある分、何を削って何を残すのか、個性がはっきりする。観る側も一気に作品を比較できる。そんなメリットも大きいと考えました。
——:審査の仕組みも特徴的だと聞きました。
石多:賞は審査員の皆さんの協議で決めます。単なる採点投票ではなく、議論を通じて「どこが良かったのか」「なぜ成立しているのか」を言葉にしていく。そのプロセス自体がプロジェクションマッピング制作の今後の方向性のヒントになります。 あとはクリエイター同士の交流の場としても、この大会は非常に大きな意味があると思っています。現在も、もちろん継続していて、近年では50以上の国と地域のクリエイターが参加する、世界でも評価される大会になりました。

プロジェクションマッピングは、技術より「何をつくるか」で決まる
——:石多さんが考える、プロジェクションマッピングのいちばんの魅力はどこにありますか。
石多:プロジェクションマッピングは「高度な技術」に注目が集まりやすいんですが、僕は技術より「何をつくるか」のほうが大事だと思っています。制作アプリやプロジェクターの性能とか、それだけで観客の体験が良くなるわけではありません。
——:クリエイターとして、「何をつくるか」を決めるときの軸は何になりますか?
石多:まず伝えるメッセージを定め、そこへ向かって演出する手法や映像の内容を考える。プロジェクションマッピングって、建物に映すイメージが強いですが、建物じゃなくても成立します。例えば、手元にある小さなコーヒーカップに映像をマッピングすることもできるんです。モノの形、素材、距離感、そういう条件を読むと、建物以外でもちゃんと体験になるし、物語もつくることができます。
プロジェクションマッピングって、見た目が派手だから「すごい!」で終わりやすい。でも、「投影する場所や物と関係しているか」「その企画の必然性があるか」みたいな裏側の要素が入ってくると、ただ美しいだけの芸術ではなくなります。そこに、クリエイターとしての魅力や挑戦する価値があるのだと思います。



プロジェクションマッピングは、建物に映せば成立するものではない。映像をどこに置き、何を伝え、どんな表現として成立させるのか。そこに企画の核があります。そして、その核を支えるのが、運用・安全・調整・知見の共有といった「場づくり」の積み重ねだと石多さんは語ってくれました。 後編では、その魅力がどんなふうに形になっているのか。石多さんに国内外の参考事例を挙げてもらいながら、具体的に見ていきます。
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