先進事例紹介
CASE.07
一般財団法人プロジェクションマッピング協会(後編)
日本におけるプロジェクションマッピングの先駆者である一般財団法人プロジェクションマッピング協会の代表理事・石多未知行さんへのインタビュー後編では、石多さんに国内外の実施事例や、日本のプロジェクションマッピングならではの特徴と海外との違いを語って頂きます。さらに、メディアの多様化やAIの進展を踏まえ、プロジェクションマッピングがどのように発展していくか、今後の展望についても触れて頂きます。
実施団体:一般財団法人プロジェクションマッピング協会
エリア:―
実施時期:―

一般財団法人プロジェクションマッピング協会
代表理事 石多 未知行
プロフィール
武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科卒業
映像を光として捉え、空間表現するアーティスト・演出家として国内外で活動し、唯一無二の作品や企画を多数生み出す。
近年はプロジェクションマッピングや空間演出を中心に、商業施設の空間演出、ライブや舞台の演出、展覧会やアートフェスティバルといった観光や公共事業の企画プロデュース、ナイトウォークなどにも数多く携わり、各企画・各地の特色を活かしたオリジナル作品を多数生み出している。
国内外の大会審査や講演にも招聘される、プロジェクションマッピングの国際的な第一人者。
日本独自の世界観を「空間」で表現する
——:これまで数多くのプロジェクションマッピングを手掛けてきた石多さんからみて、特に印象的な作品があればいくつかご紹介いただけますでしょうか。
石多:プロジェクションマッピングは、もともとヨーロッパで広がってきたものということもあり、日本でも最初はヨーロッパの事例を参考にしたものがほとんどでした。だから日本的な作風のものを作ってみたい、という思いが強くありました。
そういう観点では、高知県で行った『龍馬伝幕末志士社中』という作品は、印象に残っているものの一つです。 NHK大河ドラマ『龍馬伝』で制作された龍馬の生家の美術セットにプロジェクションマッピングを施すことで、幕末にタイムスリップしたかのような映像空間を創造しました。室内の居間を囲う障子の一枚一枚に映像を配置し、人影はあえてシルエットにすることで、障子の向こう側に本当に人がいるような気配をつくり、龍馬の住まいの空間に包まれる体験を成立させました。グラフィックも日本画のデザイナーと組み、「日本的な空間で、日本的なビジュアルでコンテンツを作る」という意思を最後まで貫いた作品です。
——:日本的な表現といえば、プロジェクションマッピング協会さんで主催される『1minute Projection Mapping Competition(以降1minute)』でも、小田原城を使ったプロジェクションマッピングを実施されたこともありました。
石多:そうですね。2019年の『1minute』は小田原城で開催しました。海外クリエイターの注目が集まったおかげで、それまでの開催とは参加応募者数の数が大幅に増えました。やはり 「城」という日本特有の建築物でやれることが、制作者のモチベーションを大きく引き上げたと思います。 一般的な建物ではなく、城という特別な存在と自分の映像表現を掛け合わせたらどう見えるか。投影対象そのものが魅力的であることはプロジェクションマッピングでは重要な観点であり、小田原城は歴史的な背景と絡めてキャンバスとしての強い力を持っていたのではないでしょうか。
——:小田原城では、『常盤木門SAMURAI館』というスペースで、常設のプロジェクションマッピングシアターを手掛けられていますよね。
石多:ここでは甲冑とその背後の屏風、さらに奥の壁までを使って演出を組み立てています。甲冑そのものは動かないのですが、プロジェクションマッピングにより影を動かし、まるで甲冑に魂が宿ったように感じさせるようにしました。侍の精神性、戦いの気配、そして夢の後のような余韻。日本的な感情の揺れを、空気として空間に描いています。


アイデア次第で活用はどこまでも広がる
——:「イベントのコンテンツ」としてだけでなく、商業用のコンテンツとしてもプロジェクションマッピングは活用されていると伺いました。
石多:たとえば、展示会のブースで商品の説明用にステージ演出をプロデュースしたことがあります。これまでは商品を紹介する際、技術的な説明だけで興味を惹きつけられないという課題がありました。そこで、あるショップ店員の1日を舞台にして、その中で商品が実際にどう使われるかを演出しました。芝居仕立てのプレゼンテーションとして、さまざまにシーン展開しながら、感覚的に商品の良さを伝えられるエンタメとして仕立てました。 場面が変わるごとにプロジェクションマッピングで美術を変化させ、説明的になりすぎず、ただ伝えるべきことはきちんと分かりやすく伝えることを狙った結果、とても評判の良いプレゼンテーションを創ることができました。
——:「建物の壁面」とか「イベントのアトラクション」というような大規模な実施イメージが強いプロジェクションマッピングですが、この事例のように、我々の生活に関わる場面を表現する際にも活用する機会があるのですね。
石多:そうです。他にも、結婚式の披露宴でも多数使われています。入場やお色直しのタイミングに合わせ、和装なら和風のビジュアル、洋装なら洋風の空間といった複数パターンを用意して、新郎新婦がシーンを選べるように設計しています。場の一体感と、祝福の空気を高めるためのツールとして、規模の大小ではなく、場面と感情の設計をしっかり行うことで、プロジェクションマッピングを効果的に使うことができます。
他にも、ジュエリーショップのウィンドウ用に、紙でつくった建物をイギリスのクリエイターとコラボして制作し、その裏側から映像を投影して、紙の建物の中で恋人たちの物語を描いた作品も印象に残っています。ジュエリーをミニチュアの世界観と結びつけて語り、お客様から高い評価をいただきました。ジオラマ的な世界に惹かれて、男性客も足を止める。それが「男性にも商品を見てほしい」というジュエリーショップ側のニーズにも応える設計になっています。



地域のアイデンティティを「動き」に変える
——:地域活性、地方創生の観点での活用事例はありますか?
石多:地域活性を目的とする活用では、それぞれの地域性をいかに取り込んで、それを魅力的なコンテンツに仕上げるかが大切だと思っています。 焼き物の町として知られる長崎県の波佐見町では町の工房とコラボレーションしながら、40〜50ほどの窯元ごとに異なるデザインをコンテンツの要素として使い、プロジェクションマッピングを制作しました。窯元は「あそこで面白いことをやっているから見に行くといいですよ」と来訪者に勧めイベントの集客につなげる。逆に映像を見た人は「このデザインはどこの窯だろう」と窯へ足を運ぶ。この企画を通じて、訪れた方々が町のさまざまな場所を巡りながら楽しめるようになりました。
——:なるほど、それは素晴らしい活用法ですね。その他の地域でも活用事例があればぜひお聞かせいただけますか。
石多:他には、福井県の坂井市にある「ゆりの里公園」という場所で壁泉と貯水タンクを活用した常設展示を行っています。音楽とともにプロジェクションマッピングを投影し、水面に揺れる光の反射や、水のせせらぎと光が織りなす空気感を地域の方々に、上質な体験として楽しんでもらえるような空間を作り上げています。農地の中に作られた公園という立地も含め、地域環境そのものを演出に取り込み、地方の観光コンテンツとしての魅力を発信する。またそれを常設にすることで、地域の夜の観光コンテンツをつくっています。
——:石多さんが沖縄でプロデュースされた『沖縄交響曲2020 in 国立劇場おきなわ』も、地域活性を目的とした大掛かりなイベントでしたね。
石多:沖縄でプロジェクションマッピングの大会をやりたいという相談からスタートした企画でしたが、もっと沖縄にコミットした内容にしたいと考えました。それで全体を4楽章で構成し、沖縄の歴史と未来を想起させるストーリーを軸に、世界中のクリエイターとコロナ禍でコラボレーションして制作しました。地元の芸能音楽や民謡クラスの子どもたちの歌声を取り込み、制作クリエイターが複数いても、音楽が一本の背骨として世界観をつないでいけるように構成しています。
観光的側面で大切なのは、その地域の人が持つ思いを取り込み、地域の物語としてアップデートし成立させること。映像技術は手段であり、主役である地域のストーリーをどう魅力的に紡いでいくのかに注力した作品です。



日本と海外、プロジェクションマッピングの違い
——:海外の事例も、ご紹介いただけますか?
石多:フランス・リヨンのフェスティバルが世界的に有名です。リヨンでは、街中がプロジェクションマッピングを含めた光アートを散りばめたフェスティバルとして展開されていて、3〜4日間で、200万人から400万人もの人が集まります。街全部を歩行者天国にする大掛かりなイベントですから、日本とは規模が違いますね。
ヨーロッパにはプロジェクションマッピングに向いた石造りの建物が多く、大きな建物の前には広場があり、観客が集まれる場所が確保されている。そうした環境的アドバンテージが、プロジェクションマッピング発展の土台になってきました。規模感の差は作品の量だけではなく、街のブランディングにかける構造が生む差でもあります。
——:世界のプロジェクションマッピングを熟知した石多さんから見て、日本と世界のプロジェクションマッピングに関する違いは、どこにあると思いますか?
石多:大きな違いはプロジェクションマッピングの制作過程だと思います。具体的には、制作を依頼する発注者と実際に制作をするクリエイターの関係性となりますが、日本は、プロジェクションマッピングの発注者のニーズをもとにしたゴール設計が先にあり、そこへ向けてクリエイターが企画を組み立てていく構造になりやすい。
一方で海外は、まずクリエイター主導で骨子を構築して作品づくりをし、発注者がそのアーティストに頼って協働する、あるいはブランドの世界観に近いアーティストを選んでスポンサーになるという形も成立しやすい。つまり制作のベクトルが逆の場合が多いですね。 私は主に国内外のクリエイターをサポートする側として発注者との間に立ち、個性の強いクリエイターの魅力をそのまま作品に反映させるのではなく、魅力をどう活かして発注者側のニーズにアジャストするかをコントロールする立場を担っています。日本と世界の違いも踏まえ、クリエイターに「気持ちよく制作をしてもらう」環境を整えることが重要だと思っています。





AIが変えるプロジェクションマッピングの未来
——:プロジェクションマッピングの今後の発展を、技術面と表現面からどう展望されますか?
石多:プロジェクションマッピングは、ヨーロッパでは「ビデオマッピング」といわれるように、映像をマッピングするという意味合いが強いです。映像という媒体で言うと、プロジェクションもあれば、モニターもLEDもあり、昨今はレーザーもある。そういう映像媒体が多様化してきているので、それをどう統合的に扱っていくかが一つの鍵となります。 今後はただプロジェクションマッピングを作るというだけでなく、複数の技術や媒体の活用をまとめて人に驚きを与える体験に束ねることができる演出家やプロデューサーの存在が重要になると思います。日本はそういった統合的にコントロールできる人材がまだ少ないため、その育成が課題となっています。
——:さらには、AIの活用法も大きなポイントになりそうですね。
石多:確かにそうですね。『1minute』でも、数年前に完全に生成AIのみで作った作品がグランプリを獲得しましたが、この際の審査では「AIを作品としてどう扱うか」を巡って肯定派と否定派の議論が起きました。最終的に尊重されたのは、技術の新しさだけではなく、その作品が表現として成立し、人の心を動かしていたという判断でした。重要なのはAIそのものの技術ではなく、制作プロセスをどう設計し、制作者の想いをどう表現へ落とし込むかだと思います。 しかしAIを使って表現することは、世の中のスタンダードになりつつあります。AIをツールとして上手に使いこなしていくことができるか。AIがどんどん広がってきているだけに、今後大切な要素になると思います。
——:最後に、今後の協会として、どんなことに力を入れていきたいですか。
石多:私が一番重要だと思っているのは、プロジェクションマッピングそのものの「理解」を、使う側にも作り手側にも、正しく広げていくことです。クリエイターの経験が積み上がっていく一方で、これから伸ばしたいのはプロジェクションマッピングをコンテンツとして活用する側のリテラシーです。そのためには「どんな実施場所が向いているのか」「どんなコンテンツと掛け合わせると魅力が増すのか」「どうコントロールすると空間体験として有効になるのか」をトータルに判断できる人や組織を増やしていきたいと考えています。実施のガイドライン作成やコンサルティングを行うことで、ノウハウがない団体や企業でも良いコンテンツをつくれるように、協会としても支えていきます。
もうひとつは、作品の質を守り高めることです。どこかで行った、見たことのある「二番煎じ」や、仕上がりの満足度が低いものが増えると、プロジェクションマッピング自体のイメージが悪くなってしまう。体験する人が驚き、喜んでくれる作品を生み出すクリエイターや企画者の挑戦が生まれる土壌をつくる。一つひとつの取り組みが積み上がって、次の企画に活かされる。そんな流れや文化をつくるのが、これからの普及で一番のポイントだと思っています。


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